儲ける形を作って、続けていける農業を
- ――農業で儲けることについてどう思いますか?
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必要なことだと思っています。今、自分はこの地域では唯一の若手農家としてやっています。元々は50軒近くの農家さんたちが集落を上げてぶどう作りをしていたのですが、今はもう7軒にまで減ってしまいました。この衰退の背景には、しっかり儲けられている人は残って、そうでない人は辞めていったということが関係しているのではと思っています。やはり、やりがいだけでは生活していけません。しっかりと儲ける形を作っていかないと続いていかないし、自分のやりたいこともできないと思うんです。そういう意味でも、「儲かる」ことは絶対に目指していきたい理想でもあります。
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――元々、農業をしたかったんですか?
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はい。ここは母方の実家のぶどう園なのですが、小さい頃から遊びに来たり、手伝いに来たりしているうちに農業に興味を持ち始めました。そこから農業高校・農林大学校に進学し、ずっと農業について勉強をしてきました。
- ――実際に就農してみてどうですか?
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祖父母から農園を引き継いで、自分が経営するようになってから今年で6年目になるのですが、まだまだ納得できるぶどう作りができていないというのが正直なところです。やはり、自分の興味があって仕事にしたいとずっと思ってきたことなので、まずはそこを完成させるということ、そして、今まで家族が大事にしてきたものは守りつつ、販売方法など自分のオリジナリティを取り入れたオンリーワンのものを作ること、そして、そのぶどうのことをたくさんの人に知ってもらうことを目標にしています。
- ――自分のやりたいことを確立しながらも、利益を出すことが大切なんですね。
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そうですね、自分の中では儲けることだけが目的ではなくて、まずは農業を続けることが重要だと考えています。続けていくためには、儲けることも必要になってくるので、どちらも両立させることを心掛けています。
注目のシャインマスカットにもまだ伸び代が
- ――シャインマスカットは近年人気の品目だと思いますが、まだ伸び代はあると思いますか?
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はい、ここ数年シャインマスカットはかなり注目を浴びていて、購入したいと言う人は増えています。それを裏付けるように実際、シャインマスカットの価格は年々上がり続けています。最近は全国的に生産されているので市場には数が出回っているはずなのですが、それ以上に需要があって「欲しい」と言ってくださる方がたくさんいらっしゃいます。
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そんな中で、スーパーに並んでいるそれなりのものよりもう1ランク上のものが欲しいとか、贈答やプレゼントで利用したいという方に向けて、農家が直売することであらゆる客層に商品を提供していくことも、今後期待できるところなのではと思っています。
- ――儲けることを考えた時、まず何を心掛けていますか
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どうしても単価が低いと、ある程度の量を収穫しないと成り立たなくなりますし、それには人手も必要になってきます。自分ができる範囲を超えてしまうと、理想とするぶどう作りができません。私はどちらかというと、一房一房をしっかり見て、良いものを作って、高い値段で売るというやり方をしていきたいと思っています。
- ――なるほど、その場合は個人で購入される方が多いんですか?
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そうですね、特にコロナ禍になってからお店に行きにくくなったり、外出自粛中にオンラインで買い物をしてみたら便利さに初めて気付いたというお客さんが増えたような気がします。実際に、うちでは以前からネット販売をしていたのですが、コロナ後から今まで繋がりのなかった新規のお客さんが一気に増えました。なので、ネット販売にはまだまだ伸び代があると思っています。
良いものを作って自分で販路を確保していくことが
安定的な経営に繋がる
- ――ぶどう園を引き継いでからは、どんなことが大変でしたか?
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この農地は最初からぶどうが収穫できる状態で引き継ぎました。ぶどうは木を植えてから4〜5年で収穫できるようになって、20年〜30年の間ずっと1本の木で育てていくんですけど、その年にやったことがその年のうちに出るとも限りません。今年やったことが翌年、もしくは2、3年後にだんだん響いてくると言う感じの性質があって、私が引き継いだ直後はまだ祖父母の代の管理の流れで採れたものもあったと思います。でも、私がやるようになってから3、4年経った頃、粒が大きくなりにくくなるなど、今までできていたものができなくなってきた時期もありました。今やったことがすぐに結果にならないという難しさはありますね。
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――今年6年目ということで、その辺りは克服できましたか?
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そうですね、毎年少しずつですが課題は解決できていると思います。昨年までは、認定の新規就農者ということで、市や県の農業普及部の重点的な指導対象になっていたので、その方たちに技術や改善方法などを相談して、1つずつアドバイスをいただいて解決してきました。
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――「儲かる農業を考える会」からのアドバイスはどのようなものですか。
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栽培に関しては、先生の指導をいただいています。そして、今まで栽培重視でやってきていたところに、会の方では経営の部分をしっかりと教えていただいています。自分が今まで知らなかったことや疎かになっていた部分が、今後に発展していけるのかなと思っています。
- ――作って終わりではなく、その先にどう売るかということも農家としては重要ですよね。
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そうですね。今までもネット販売をしていましたが、けっこう感覚的にやっていた部分もあるので、マーケティングや販売戦略としっかり考えながらやるということも今後指導していただけるとありがたいです。
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品目によると思いますが、うちがメインにしているシャインマスカットは、全国的に作るところがどんどん増えていって、今後どこかのタイミングで市場が飽和状態になることは確実です。値段もどんどん下がっていくと予想される中で、すべてをJA出荷に頼っていては「いつか痛い目に遭うのでは」と覚悟もしながら、今のうちから自分のところでしっかりとお客さんと繋がり、ファーム作りをして、その上で「うちのぶどうが欲しい」と言う方を増やしていく方が、将来も安定的な経営ができるのではないかと考えています。
贈答用として高いクオリティのものを届けたい
- ――今後の目標はありますか?
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良いものを作れば単価も上がって経営もより安定しますし、何よりお客さんに喜んでいただくことが一番大事だと思っていますので、特に贈答でもらった方に喜んでもらえるように、味はもちろん、見た目やパッケージなどにもこだわってクオリティを上げていきたいと思っています。
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――最後に、今後就農される方に向けてメッセージをどうぞ。
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いかに人との繋がりを作っていくかということが大事だと思います。先輩農家さんやベテラン農家さんは、それなりに失敗をたくさん経験してこられている方だと思うので、そういった方々の話を聞いて、成功まではいかなくても、まずは自分が失敗するリスクをどんどん潰していくことも大切なのかもしれません。
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ぶどうは木を植えてから4、5年経たないとお金にならない品目なので、その間にどう生活していくかなども考えておかなくてはなりませんし、世界中で資材が高騰している中でハウスを1から建てるのもなかなか難しいと思います。なので、これから新規就農を考えている方は、品目やそのマーケット事情、あとは周りに相談できる先輩農家がいるかどうかが重要になってくるかと思います。
潮田氏のコメント
星野さんは、農業研修からの下積み経験と地道な長年の努力をされてきた地域のブドウ栽培の期待の星の方です。その努力の甲斐あり、基本技術や経営に対するしっかりとした考え方を持っている方です。儲かる農業の会の認定者になった今期、星野さんには、まずブドウ栽培で、島根県を越えて、中国地方で一番の品質のおいしいブドウを作っていただけるように、土作りで足りないところをアドバイスさせていただきました。ブドウ栽培は、改良するのに数年を要しますので正しい方向で改良を続けていくことがとても重要です。1年目の今季は葉っぱの状態が改善がみられ、葉肉が厚い、非常に受光体制がよい状態になってきました。甘いブドウを作れる農家さんは、意外といますが、さっぱりとした甘いブドウを作れる農家さんは極少数で、そこがトップクラスとの境目です。非常にリピーターとして好まれるブドウの本来の味です。この状態に数年で達するようにアドバイスさせていただいております。また経営面でもダイレクト販売の為のアドバイスを行っており、経営状況の改善とともに星野さんのギアファームブランドを作るべくブランディングのアドバイスを今後、重ねていきます。日本を代表するブドウ農家になるべく期待しております。
神田 颯太IZUMO VEGE
星野 和志GEAR FARM
藤原 潤加藤完一商店