綿農家のロールモデルになりたい
- ――農業で儲けることについてどう思いますか?
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当然、自分の暮らしを豊かにしていくことにはお金が要るので、儲かれば儲かるだけ良いなとは思っています。もう1つは、自分の代だけでこの事業を終わらせてしまうことは非常に残念だと思うので、この先も綿作りをする同じようなプレーヤーがいる状態を維持できるように、自分がロールモデルになっていくべきだと考えています。私がしていることを、同じようにすれば儲かるんじゃないか、暮らしていけるんじゃないかって思ってくれる人が増えていくことが大事だと思うので、まずは1つの事例となれるように、自分がしっかりと儲けていくことを目標にしています。
- ――綿花栽培は将来性のある市場ですか?
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そうですね、すごくブルー・オーシャンです。綿花栽培しているところ自体が少ないのでまずライバルがいません。元々事業としてやっているところが片手くらいしかいない中で、国産綿100%を提供しているところはその内の2、3軒くらいしかないので、商売としては非常にやりやすいと思っています。ただ、作るのが大変ではありますが、将来的に見込みがある市場です。
- ――そもそも、なぜ綿花栽培をやろうと思いついたんですか?
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岡山の大学でジーンズを研究していて、ジーンズ工場に足を運んでいるうちに繊維に関わりたいという思いを抱くようになりました。その後、まったく別の家電業界に就職し、サラリーマンとして日々過ごしていたんですが、やっぱりどこかで「繊維の仕事をしてみたいな」という気持ちが残っていて。それで、島根県に帰ってくるタイミングで、繊維に関わる仕事をしようと思ってはいたんですけど、どうしても繊維の業界って、すごく手の届かないようなプロフェッショナルたちがいるような業界なので、私のような素人が入れる余地がなかったんですね。ただ、原綿のところだけは日本では誰も手をつけていなくて「ここだったら自分の居場所というか、活躍もできるし貢献もできる場所があるんじゃないか」という思いから、今のこの事業に辿り着きました。
- ――最初は繊維に興味があったんですね。どうしてそんなに繊維に興味を持ち始めたんですか?
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岡山の工場を見学させてもらった時に、すごく田舎でいわゆる「町工場」っていう感じだったんですけど、そこにプラダなど世界のハイブランドのバイヤーたちがわざわざ来て、直接生地を見て、買っていくという光景を目の当たりにしました。その時に「田舎でも世界と勝負できる場所があるんだな」ということを強く感じたんですね。ファッションと田舎って、なかなか結びつけることがないと思うんですけど、この原綿であればむしろ田舎の方が向いている産業ですし、ファッションと農業を敢えて繋げてみたらおもしろいんじゃないかって思いました。
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そんな中で、スーパーに並んでいるそれなりのものよりもう1ランク上のものが欲しいとか、贈答やプレゼントで利用したいという方に向けて、農家が直売することであらゆる客層に商品を提供していくことも、今後期待できるところなのではと思っています。
- ――製品ではなく、材料の方に目を向けたんですね。
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うちはとにかく、まずは材料をしっかりやりたいと思っています。その材料作りもうちだけの力ではなく、日本国内にある強力な工場の皆さんの「技術の蓄積」と掛け合わせて、より良いものを作っていきたいと考えています。
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最初は、綿農家さんから綿を買ってTシャツを作ろうと思っていたんですが、その農家さんに売る量がないと言われたんです。もし、売る量あっても、すごく高い値段になってしまうと。そんな具合で、供給もないし、コストも合わないしって途方に暮れていた時に、雲南市の休耕地がどんどん広がっている実情を見て「これは自分が作るのが一番早いな」ってひらめいたんです。そうすれば、供給面も安定しますし、コストも抑えられて、今抱えている課題を全部解決してくれるのではと思って。その時は、農業に関する課題はあまり頭になかったんですが(笑)。でも、今こういう風に事業も何とかできているんで、良い選択だったと思いますし、結局ここまで本気でやらないと工場にも協力してもらえません。まずは自分でやることが大事かなと思います。
- ――自分でやるというのは思い切った決断でしたね。
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そうですね。でも、そこをお客様がおもしろがってくれています。体験会のイベントにもたくさんのお客様が来てくれますが「藤原が自分で農業をやっていて、その藤原が指導して一緒にできる」というのが、他とは違って特異性があるところなのかなと思っています。
- ――ゆくゆく世界にも名が知られるようになれば、状況はかなり変わってきますよね?
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一緒にやる仲間が増えていくということは、業界自体の価値観が変わってくることだと思います。特に、農業って高齢化が進んでいる産業ですけど、綿の場合は若い方が興味を持ってくれているようです。体験会を開くと、農業の体験会というよりは、カルチャーを体験しに来てくれていて「あ、これが洋服になるんだ。これがファッションになるんだ」という勉強のために来られている方が多い印象です。なので、通常の農業とは毛色が違って、若い人たちにとってはキャッチーなものなのかなと思っているので、この綿産業が大きくなればなるほど、若い人たちが農業に興味を持ってくれるきっかけになるんじゃないかと期待しています。
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――そうなれば、産業的にも経済的にも伸び代を感じますね。
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今は同じような原綿を栽培するプレーヤーを増やすこと。そして、実は綿を糸にする工場や、生地にする工場も出雲域内にけっこうあるので、そういった企業と一緒になってやっていくことで地場産業化させていくことも1つの計画です。どんどん、島根率、雲南率を増やしていって、この辺りの地域ですべてが完結できる状態を作るということも産業としてはおもしろいなと思っています。
常にある課題をどう乗り越えていけるか
- ――では、実際に農業を始めてからどんなことに苦労しましたか?
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最初は、「ロット」の壁にぶち当たりました。工場で「糸にするロットは、綿が1tないとできません」と言われて。私、その年に採れた量が10kgしかなかったんですね。100倍かぁ!と思って、その時は本当に目の前が真っ暗になったんですけど、そこからすぐに机上の計算に入りました。「何年後までに何kg採れる、何人いればこれが達成できる」という計算をして、もう次の目標に向かってどうするかという気持ちに切り替えられたんで良かったと思います。好きだからできたとは思いますけど、今後も立ちはだかる課題ではあるので、そこは上手く乗り越えて事業を続けていきたいと思っています。
- ――どうやってクリアしたんですか?
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今の商品は、一旦糸にして、生地にして、それから製品にしているんですけど、現在工場と交渉して、例えば1tのロットのところを少し値段を上げて200kgのロットを無理矢理作っていただきました。そうすることによって、うちも利益が出ますし、よりお客様が手に入りやすい値段になると思います。
- ――ランニングコストは大きいですか?
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大きいですね。夏の間は割と1人でできる作業が多いんですけど、5月の種を植える時期だとか、収穫の時期は非常に人手が要ります。なので、アルバイトを雇って来てもらっているんですけど、かかる人件費はすべて先払いです。この事業は、実際にTシャツや靴下の製品になるのが、翌年の夏なんですね。なので、種を植えた時から1年と2、3ヶ月後に初めて現金化される形態なので、先払い、先払いというところがなかなか厳しいところです。
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農業はみんなそうなんですけど、そこが課題でもあります。いかに投資を上手くして、計画通り回収していくかというところを考えないといけないので、農家の皆さんは同じ悩みを抱えていると思います。皆さんけっこう上手にされていて、作物を育てる時もきめの細やかさが味や品質になってくるんですけど、恐らくそういった方々は帳簿をつけたりする時もきめ細やかにされているんだろうなと思います。
ビジネスとして成り立つ仕組みを教えてもらえる
- ――「儲かる農業を考える会」について教えてください。
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平時はSNSを使ってオンラインで指示を受けたり、様子を報告して、あとは月1ペースで圃場に来ていただいて、実際に作物の様子を見てアドバイスをもらっています。自分では気づかない点がけっこうあって、専門家の方に話していただけることはありがたいですね。あとは、「頑張ってね」と声を掛けてくださるので、それが精神的にも非常にやる気に繋がっています。
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ここの地域の方々にも色々とアドバイスはいただいていますが、栽培方法や品質向上などの技術的なところがほとんどです。それに対し、会では農業をより良いビジネスとしてどう動いていくかというところを中心に相談に乗ってもらっています。もちろん、技術面でもアドバイスはいただけますが、それにプラスαでビジネスとして成り立つ仕組みも教えてもらっています。
- ――ビジネスベースで農業をしておられるので、そこはマッチしていますね。
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そうですね、会の目的と私の考えの方向性が一緒なので良かったと思います。まずは、私がしっかりとビジネスとしてこの事業を成立させて、利益を出して、次の人に繋げていくんだというところも共感をしていただいているので、同じ方向性を向いているのはやりやすく、自分に合っているなと感じています。
- ――最後に、今後就農される方に向けてメッセージをどうぞ。
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私が綿花栽培を始める時、周りに「そんなもの売れないよ」って言われましたし、値段も高くてほとんど共感を得られないところからスタートしました。実際自分の中でも「そんなことない!いや、そうかもしれない・・・」と迷いながらも事業を進めてきた結果、今では非常に共感してくれる人がいて、しっかりと買ってくれる方もいらっしゃるので、「自分の選択した道は間違ってなかったな」と思っています。
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やはり、その作物のことや農業のことは、本人が一番よくわかっているところだと思うので、ぜひ自分を信じてやっていただきたいと思います。ただ、もちろん正しいアドバイスをしてくださる方もいらっしゃいますので、自分で「この人は本当の味方だな」という人を見つけて、その人の話を聞くというのがベストですね。
潮田氏のコメント
藤原さんは、有機栽培の国産綿花による衣類の商品開発と販売を行っております。国産の有機栽培の綿花は、生産者がほとんどいないため、非常に貴重なものとなっています。またそれで開発している衣類関係の商品は、コアなファンがいるニーズがあります。儲かる農業の会の認定者になった今期は、原料である綿花つくりの栽培方法を確立するべく一緒に取り組ませていただいております。綿花は現在、日本ではほとんど栽培されていないため、栽培方法が確立されていないのですが、調べたところ、アオイ科であり、ちょうどオクラの近縁種ということがわかりました。そのための現在、藤原さんとともにオクラの栽培方法をもとにした綿花栽培方法の開発に取り組んでおります。ただし、一般的にはあまり知られていないのですが、オクラの栽培は非常に技術が必要なとても栽培が難しい作物です。一緒に取り組む中で、オクラに近い成長の状態を呈してるのが確認できたので、今後、オクラの栽培の応用を取り組んでいただいております。藤原さんが、この綿花の栽培方法の確立に成功すると、新しい島根の産業を作る可能性があります。また、綿花の品質と収量をあげることにより、糸自体の品質をトップレベルまで引き上げる可能性があるので日本の新しい衣類業界のブランドを立ち上げることができる可能性があります。藤原さんの今後のご活躍に期待しております。
神田 颯太IZUMO VEGE
星野 和志GEAR FARM
藤原 潤加藤完一商店